岡山県倉敷市真備町にある私設博物館「マビ昭和館」。月2日だけ開館するこの場所には、名車やミニカーなど昭和の資料が12,000点以上。懐かしさと発見に満ちたタイムスリップ体験ができます。
一歩足を踏み入れると、そこはもう昭和の空気に包まれた別世界。博物館という言葉には収まりきらないスケールのタイムマシンです。泥臭くも輝いていた昭和という時代を実際に生きてきた館長や、温かいスタッフの皆さんとの触れ合いも大きな魅力。この記事では、昭和を約3分の1ほど生きてきたライターが実際に「マビ昭和館」を訪れ、体験してきたタイムスリップの様子をお届けします。
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目次
- ミニカー集めから始まった「12,000点超の昭和コレクション」
- 実際に走れる名車たちが誘う「時をかける空間」
- 懐かしい生活用品と農具が呼び覚ます「あの頃の記憶」
- 昭和の部屋の先に広がる「圧巻のミニカーコレクション」
- ボランティアスタッフが伝えてくれる「昭和の人の温もり」
- お腹も心も満たす「昭和レトロなカフェメニュー」
- 2018年の水害を乗り越えて――「恩返し」の再出発
- 名車デボネアが繋いだ「パレードと映画の思い出」
- 世代を超えてつながる、笑顔とパワーの場所
ミニカー集めから始まった「12,000点超の昭和コレクション」

岡山県倉敷市真備(まび)町にある「マビ昭和館」は、月にたった2日(毎月第1・第3日曜日)だけ開館する、個人が運営する私設博物館です。昭和とは1926年から1989年まで続いた日本の時代区分のこと。当時を知る大人は懐かしさに心を熱くし、初めて見る子どもたちは目を輝かせる――そんな昭和レトロの世界を求めて、全国から多くの人がこの場所に集まってきます。

「車が好きでね。最初はミニカーのトラックとかを集め始めたのがきっかけだったんです。大きな本物の車をたくさん集めるわけにはいかないから、まずはミニカーを自分の手元に置いて楽しんでいました」と笑うのは、「マビ昭和館」館長の丸岡律夫(まるおか・りつお)さん。この圧倒的なコレクションは、館長が45歳のときに集め始めたミニカーがきっかけでした。
車好きが高じて、定年後には旧車を自分の手で板金修理し、実際に走らせるほど車への情熱を注いできた館長。気づけば、自宅にあったお父様の形見のカメラや、コツコツと集めたミニカーは数千台規模にまで膨らんでいました。「せっかくなら、どこかでみんなに見てもらいたい」――そんな思いから倉庫を大改造して展示を始めたのが「マビ昭和館」の始まりです。現在は自動車、ミニカー、バイク、自転車、カメラ、生活用品、おもちゃ、映画ポスターなど、実に12,000点を超える貴重な昭和の資料が所狭しと並んでいます。
「車に思い入れが強いので目立っていますけど、何かに特化したわけではなく、あらゆるジャンルの昭和が詰まっていますよ」(丸岡館長)
実際に走れる名車たちが誘う「時をかける空間」

受付で入館料を払う前から、すでに目を引くのは三菱デボネア・コンバーチブル(オープンカー)をはじめとする数々のクラシックカーたち。美しく並んだその姿は館長のこだわりの表れで、驚くことに「マビ昭和館」の車たちは展示品でありながら正式なナンバープレート付きの登録車。つまり、今でも実際に公道を走ることができるのです。

車たちを見下ろすように壁一面に貼られた映画ポスター群、なかでもひときわ目を引く手描きの看板は、実際に倉敷の映画館で使われていた大変貴重なものです。ポスターの裏側には、昔ながらの理髪店や駄菓子屋の風景をリアルに再現した「昭和レトロ横丁」も。ライターにとっても懐かしいこの空気は、どこを切り取っても当時の人々の暮らしぶりが伝わってくるようで、まさに時間旅行そのものです。
「見てもらうために車を綺麗にしたわけじゃなくて、もともと綺麗にして飾りたいっていうのが自分の性格なんです。みんなが喜んでくれるから本当に嬉しいですね」(丸岡館長)
懐かしい生活用品と農具が呼び覚ます「あの頃の記憶」

館内に流れる懐かしい音楽に誘われて2階へ上がると、台所用品からオーディオ・家電製品、そして時代を映す生活用品、さらにはかつて日本各地の田畑を支えた農具の数々までがずらりと並んでいます。まさに「昭和館」の名にふさわしく、昭和という時代をまるごと詰め込んで未来へと運ぶタイムマシンのようです。

昭和の子どもたちが遊んだおもちゃや文房具、キッチンやリビングで活躍した生活道具の数々。古い農具のコーナーでは、思わず立ち止まって涙する来館者もいるそうです。ここに展示されているのは特定のテーマに絞られたコレクションではなく、かつての暮らしや大切な家族との思い出を呼び覚ます「記憶のスイッチ」のような存在。ライター自身もさまざまな展示品の前で足を止め、自分自身が過ごした昭和の日々を思い出しました。
「農具や生活用具はいろんな方が持ち寄ってくれて、思い出やエピソードを話してくれるんですよ」(丸岡館長)
昭和の部屋の先に広がる「圧巻のミニカーコレクション」

「マビ昭和館」誕生のきっかけとなったミニカーコレクションは、昭和の暮らしが再現された部屋を抜けた先の専用展示室にあります。「どこから見ればいいの?」と思わず声が出るほどの圧巻の数。さまざまな種類のミニカーが並ぶこの部屋は、ミニカー好きにとっては何時間でも過ごせる夢のような空間かもしれません。気になることがあれば、ぜひ館長に質問してみてください。

ミニカーの展示室を出ると、こちらも開館のきっかけとなったカメラコレクションが待っています。館長のお父様が遺したカメラをはじめ、時代を彩ったカメラの数々に魅了されます。ほかにも学びのある展示や、「昭和の家あるある」を紹介する展示などもあり、なかなか先に進めないほど見応えがあります。
「いろんなジャンルのミニカーがあるのでじっくり見てほしいですね。好きな人は一日中居られる場所かもしれません」(丸岡館長)
ボランティアスタッフが伝えてくれる「昭和の人の温もり」


再び1階に降りて館外へ出ると、車庫には希少な三菱車やマツダのオート三輪(三輪自動車)が。こちらもナンバー付きでピカピカに保たれています。その先はオートバイと自転車のコーナー。ここにも希少なバイクや自転車が展示されており、それらを心から愛するボランティアスタッフの方が、自身の思い出を交えながら優しく解説してくれます。取材当日は「若い頃にアメリカをバイクで走った」という豪快なエピソードを楽しく聞かせてくれました。

展示品を眺めるだけでなく、実際に人と話すことでその時代の空気やストーリーに触れられるのが「マビ昭和館」ならではの体験。展示の案内や「昭和サロン」でおしゃべりを楽しませてくれる人生の先輩たちとの触れ合いも、この場所の大きな魅力の一つです。
「みんな、それぞれが適材適所で動いているので気軽に話しかけてください。僕たちも話すのが楽しいんです」(丸岡館長)
お腹も心も満たす「昭和レトロなカフェメニュー」

せっかく「マビ昭和館」を訪れるなら、お腹も満たしていきましょう。近所の方々も通う喫茶コーナー「昭和サロン」で人気なのが「昭和レトロカレー」。家庭的で優しい味わいながらコクもあり、ちょうど良い辛さが魅力です。昭和世代には懐かしく、若い世代には新鮮に感じられるかもしれません。このカレーは前日から牛すじ肉をじっくり煮込んで仕込む、手間ひまかけた一皿です。

また、シュワシュワのメロンソーダにバニラアイスをのせた「クリームソーダ」も人気メニュー。昔ながらの喫茶店の定番として、日本では今も昭和レトロブームの象徴的な存在です。月2回の営業日を心待ちにして集まる近所の方々と、サロンで働くスタッフの笑顔が、この場所の温かさをより一層引き立てています。
「昭和を満喫してほしいから、カレーのご飯も昭和にこだわって当時の炊飯器で炊いているんですよ」(丸岡館長)
2018年の水害を乗り越えて――「恩返し」の再出発

今でこそ笑顔があふれる「マビ昭和館」ですが、2018年7月に西日本一帯を襲った大規模な豪雨災害(「西日本豪雨」と呼ばれる)では、高さ183センチメートルにも達する未曾有の浸水被害を受けました。シャッターは水圧で開かなくなり、車やこれまで集めてきた貴重なコレクションの多くが水に浸かってしまいましたが、館長は「残そう」と決意し、立ち上がりました。修復が難しいものは泣く泣く諦めながらも、車だけはすべて直そうと力を注いだそうです。
多くのボランティアや全国からの温かい支援を受け、翌年5月には奇跡的な復活を遂げました。今では地域の方々が楽しめる「カラオケの集い」なども開かれる多目的ステージも設けられ、再び多くの人が笑い合う倉敷市真備町のシンボルとなっています。
「毎日20〜30人が手伝ってくれました。皆さんに1日も早く『恩返し』をしたい一心で、再開までの1年間、死に物狂いで頑張りました」(丸岡館長)
名車デボネアが繋いだ「パレードと映画の思い出」

先ほど紹介した三菱の高級車「デボネア」のオープンカー(コンバーチブル)は、「マビ昭和館」の名車のなかでも特に注目を集める1台です。この車は、瀬戸大橋(岡山県と香川県を結ぶ本州四国連絡橋。1988年開通)の開通記念として、わずか3台のみ製造されたという大変希少な車。ナンバー付きで現存するのは、今ではこの1台だけと言われています。日本の男子フィギュアスケート選手・高橋大輔さんがバンクーバー冬季オリンピックで銅メダルを獲得し、地元・倉敷に凱旋した際のパレードでは、館長自身が緊張しながらもハンドルを握り、実際にこの車を走らせました。今でもそのファンが、この車を目当てに訪れることがあるそうです。

さらに、「マビ昭和館」の車両や貴重なアンティーク品は、実はこれまで数々の映画やドラマにも登場してきました。例えば岡山県内で撮影された、日本の俳優・阿部寛さん主演の映画「とんび」にも、館の所蔵する車両が数多く登場しています。もしかすると、あなたがこれまでスクリーンやテレビ画面で目にして「どこか懐かしいな」と感じたあのレトロな自動車や小道具も、「マビ昭和館」の宝物かもしれません。
「デボネアは本当に宝物。ぜひ近くで見てください。大ちゃん(高橋大輔選手の愛称)のパレードは緊張したけどやってよかった!一生の思い出です」(丸岡館長)
世代を超えてつながる、笑顔とパワーの場所

2023年には「第二展示場」も新たにオープンし、さらに充実した内容に。ここにも希少な車が展示されているほか、2階のギャラリーには色鉛筆画作家・高本幸男(たかもと・ゆきお)さんが描いた昭和の風景をはじめ、見応えのある作品が並んでいます。タイミングが合えば、実際に制作会場にいる作家本人から話を聞けることもあるかもしれません。

近年は昭和の時代を知るシニア世代だけでなく、若いカップルや家族連れ、さらには地元の小学生の社会科見学先としても人気で、年間およそ100人ほどの子どもたちが学びに訪れているそうです。懐かしむ場所であり、学ぶ場所であり、そして何より人と人とが温かくつながる場所――「マビ昭和館」は、昭和の暮らしがまるごと詰まったタイムマシンです。元気なシニア世代の方々が教えてくれる、あの時代の暮らしの知恵。そして館長が命がけで守り抜いた宝物たち。そんな「時をかける旅」に、あなたも出かけてみませんか?
【マビ昭和館】
所在地:岡山県倉敷市真備町辻田961開館時間:10:00~16:00
開館日:毎月第1・3日曜日入館料:高校生以上800円、小・中学生400円
※障がいのある方、喫茶・軽食「昭和サロン」のみ利用の方は入館無料駐車場:あり
「引率の先生も昭和を知らない世代(笑)。本でしか見たことがない実物を前に、子どもたちも興味津々で質問してくれます。そんな『マビ昭和館』にぜひ遊びに来てください」(丸岡館長)
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