おりづるタワーは屋上展望台だけでなく、道中の"散歩坂"も見どころ。9層のスロープに広がる巨大なアートーWALL ART PROJECT "2045 NINE HOPES" を通じ、歩くこと自体が特別な体験になる魅力を紹介します。
展望台だけではない!おりづるタワーの楽しみ方
世界遺産・原爆ドームの東隣に位置する「おりづるタワー」。おりづるタワーといえば吹き抜けの展望台で知られていますが、魅力は展望台だけではありません!屋上展望台と1階をつなぐ、9層のらせん状のスロープ、スパイラルスロープ”散歩坂”。スロープ沿いの壁面には、戦後100年への願いを描いた巨大なウォールアートが展示されています。何気ない移動時間が、気がつけば特別な体験に変わっていくーそんな仕掛けが施されています。
今回はその舞台となる"散歩坂"にあるウォールアートに注目してご紹介します!
WALL ART PROJECT "2045 NINE HOPES"とは
「2045年」ー広島が原爆投下を受けてから100年後の未来。それは手の届く未来へと近づいてきました。廃墟から立ち直った広島の今を生きる、「過去を創ってきた世代」「現在を創っている世代」「未来を創る世代」である20代~90代の各世代のアーティストが後世に残したい「2045年への願い」をアートで描きました。広島にゆかりのあるアーティストたちは、戦後100年の世界に何を望むのか。直感的に感じるまま受け止めるのもよし、それぞれのアートの背景を知って観るとまた違った受け止めができるかもしれません。それでは各層を担当したアーティストと画が意味するものを見ていきましょう。
9層目 土井紀子 「long jump」
1997年山口県生まれ。広島市立大学芸術学部で油絵を学んだ後、層的構造をもった抽象表現による平面作品を発表しています。
駆ける馬の姿とその影。「影」は広島の歴史の象徴。駆ける馬の姿は過去を抱えながら前に向かって進んでいく姿を描いています。ドットで表現したのは「折り鶴の永遠の再生」平和の願いは消え去ることがなく、永遠なものであってほしい。そんな願いが込められています。

8層目 若佐慎一 「この地球には、みんな其々違う人達が生きている。」
1982年広島県生まれ。広島市立大学大学院修士課程修了。日本の風土と宗教観をテーマに、漫画やゲーム、アニメの特徴とされる要素を作品内に取り込み作成する。国内外問わず、幅広く活動されています。
虹色カラーで描かれた7体の招き猫。星は招き猫が生み出す命の煌めきを。平和の象徴の白い鳩でメッセージを描いています。招き猫の目の中には英語、日本語。ウクライナ語でで平和の願いが書かれています。

7層目 SUIKO「朝の時代」
1979年広島生まれ。日本の詫び寂びとヨーロッパの情緒、それに相反する攻撃性をもった配色は、独自の色彩論と評される。ウォルト・ディズニーやコカ・コーラなど様々な企業とのコラボレーションやプロジェクトを発表しています。
2022年の元旦に双葉山から眺めた初日の出と広島の街の景色をもとに製作されました。人々が頂上に集まり、同じ日の出を見ている景色はとてもポジティブで平和な空気感に包まれていました。世界中の人々が等しく日の光を感じられる世の中になってほしい。そんな願いが込められています。

6層目 田中美紀「謳花 366 birthday flowers」
広島県福山市出身。絵を描くことに迷い、白いキャンパスに向かうことが辛かった期間を過ごす。しかしある時、不慮の事故で夢を封印してしまった男性に、その夢を絵にして贈ったことをきっかけに「誰かの大切な想いのためなら絵を描くことができる」ことに気づく。思考を視覚化する「ビジョンプロジェクター」として活動を続けています。
モチーフは1年分の誕生花。366日分の誕生花が描かれています。国籍・年齢・性別・・・そんなものに関係なくこの世に生を受けた人には必ず誕生日がある。366個の花ですべての生命を表現しています。個性や特性を活かして自分だけの花を咲かせてほしい。そして花々が流れとなり、渦となり、新しい時代を創り出していく。そんなメッセージが込められています。

5層目 こうの史代「心経」
1968年広島生まれ。1995年「街角花だより」でデビュー。おもな著作に「夕凪の街 桜の国」「この世界の片隅に」「ぼおるぺん古事記」などがあります。
2045年を生きる誰かにこの一帯はかつて幾多の「慰霊」の念が込められていたこと。その魂は、今を生きるわたし達と本来どこかで関わっていたはずの存在。それを記しておきたい。そんな想いから「般若心経」が描かれています。カープファンの鳩から始まり、カープファンの鯉で終わり。鯉は恋=love 鳩は平和=peaceぜひ見つけてみてください。

4層目 山本基「青天の小径」
広島県尾道市出身。若くしてこの世を去った妻や妹との思い出を忘れないために、浄化や清めを喚起させる「塩」を用いたインスタレーションを制作。ニューヨーク近代美術館MoMA P.S.1, エルミタージュ美術館、東京都現代美術館等、国内外で多数発表しています。
一瞬で日常を奪われたあの日から私たちが生きる今、そして未来へとつながる時の流れや人々の想いの連なりを青空に白い雲が拡がるかのように描いたものです。壁の青色は1945年8月6日の午前8時15分の空に最も近いと考えられる色を選択。2045年の世界に暮らす人々が心から美しいと感じられる澄んだ青い色を見上げられるようにと願いが込められています。

3層目 三桝正典 「白カラス」
広島県出身。「ジャパニーズ・モダン」をテーマに表現活動を行っている。2011年茶室にて襖絵・掛け軸作品を制作。京都の大徳寺や尾道の浄土寺など、今日まで多くの社寺や茶室で展開しています。
一般的にあり得ないことの例えと言われている白い羽のカラス。力強く未来を見据える2羽の大きなカラスは爆心地の方向を向き、未来を切り開いていく者たちを象徴しています。先人の広島の人々の乗り越えてきた「力強さ」「たくましさ」によって当時あり得ないと考えられた平和な広島が今、存在します。

2層目 毛利まさみち 「月面平和都市」
熊本県出身。広島市在住。40歳代で切り絵の手法を独習。手作り絵本部門で、文部大臣奨励賞、読売新聞社賞などを連続受賞。絵本「ももの里」でデビュー後、カレンダー絵や雑誌の表紙絵なども手掛けています。
宇宙からは地球上に国境線などは見えない。宇宙は誰のものでもなく、ましてやこの無限の空間に国境線を引くことはできない。宇宙のどこかに都市が建設される日は近い。そこでは人類がみんな平等で平和な生活を営んでいるはずだという想いが込められたアート。

1層目 三浦恒祺 「光に向かって這っていけ」
1930年東京生まれ。広島へ移住後、15歳の時に被爆。現在山形在住。原爆の惨禍を油絵で描き続けています。
原爆の形象として描き続けた三つの作品を繋ぎ合わせたもので、左右の作品は、破壊を中心に描いたもの。中央の作品は平和を願う作品で、被爆後から住んでいる山形県の日本海に沈む夕日を表現しています。この景色こそが平和なイメージそのものという想いが込められています。

歩くことが体験になる
スパイラルスロープ"散歩坂"は、屋上展望台と1階をつなぐための単なる通路ではありません。一歩一歩進むたびに景色が変わり、気づけばアートに包まれている――そんな「体験」として設計された空間です。
壁面に広がる色彩や表現の数々は、写真に収めたくなる瞬間をいくつも用意してくれます。歩くことそのものが、すでに旅の一部になっているのです。おりづるタワーを訪れた際は、展望台滞在前後の時間もぜひゆっくりと楽しんでみてください。